- 9 :名無しさん 24/11/13 04:08 ID:ThQF9GAwgj (・∀・)イイ!! (1)
- もりたぽは息を引き取ったとき、静かで穏やかな表情をしていた。まるでいつもの昼寝の延長のように見えた。それでも、耳をすませ、何度も声をかけ、手でその小さな体の感触を確かめた。やっぱり、もう動かない。どれだけ祈っても、目を開けてくれることはないと悟ったとき、胸の奥がじんわりと痛んだ。
25年も一緒にいたもりたぽは、まるで空気のような存在だった。大学生の時、父が連れて帰ってきたまだ小さな子猫だった。小さな手のひらに収まりそうなあの頃から、ずっと一緒だった。気づけば、大学を出て就職し、引っ越しを重ねて、いろんなことが変わっていく中で、もりたぽだけは変わらず俺のそばにいた。人生の道程で出会った人たちよりも、ずっと長い時間をもりたぽと共に過ごした。
「俺たち、一緒に長生きしような」なんて、一年前に冗談混じりに言った言葉が耳の奥に残っている。もりたぽが俺の膝でゴロゴロと喉を鳴らしていたあの穏やかな瞬間が、今は妙に遠く感じられる。
もりたぽが亡くなって、家にはまだもりたぽの好きな栄養食がたくさん残っている。少し前、直子が「もりたぽへのプレゼント」と言って、栄養食をたくさん贈ってくれた。それを抱えながら、もりたぽが嬉しそうにしていたのを思い出す。直子がもりたぽを可愛がってくれているのは、俺もすごく嬉しかったし、もりたぽ自身もわかっていたと思う。
それなのに、あの栄養食が手つかずのまま残っているのが、どうしようもなく切ない。直子もきっと、もりたぽがいないことを寂しく思ってくれているのだろう。彼女から「お疲れ様」「ゆっくりしてください」という言葉をもらったとき、そのやさしい気持ちに少し救われた気がした。彼女の心の中にも、もりたぽがしっかりと存在していることが嬉しかった。
猫を飼うことは、別れを覚悟することだとわかっていたはずだった。もりたぽがだんだんと老いていく姿を見て、心のどこかでその日が来ることを覚悟していたつもりだった。でも、こうしてその瞬間を迎えると、思った以上に心が空っぽになったように感じた。もりたぽがいない部屋の中で、何も手につかない。もりたぽがいた場所を見つめても、もうあの愛しい姿はそこにいない。
もりたぽと出会ってから、俺の人生は変わった。彼女が俺にとってどれだけの存在だったか、言葉で表すのは難しい。彼女の小さな足音が、彼女のやわらかな毛並みが、彼女の温もりが、俺の生活の一部だった。その存在が消えてしまった今、俺は何を頼りに日々を過ごせばいいのか、答えが見つからない。
直子が頻繁に遊びに来てくれていたおかげで、もりたぽもずっと楽しそうだった。彼女は直子のことをちゃんと覚えていて、直子の姿を見ると安心したようにそばに行っていた。もりたぽは、俺にとっても、そして直子にとっても大切な存在だった。そんな大切な命が、静かに消えていったという現実を、俺はまだ受け入れられていないのかもしれない。
彼女がいなくなって、俺が一番感じるのは、もりたぽが教えてくれた小さな幸せや日常の温もりの大切さだ。彼女と共に過ごした時間が、俺の心の支えであり、人生の一部だった。だからこそ、この喪失感は大きい。でも、その一方で、彼女と過ごした25年間が、どれほど素晴らしいものだったかを実感する。
もりたぽとの25年は、決して当たり前のものじゃなかったんだと、今さらながら感じる。毎日のように膝に乗ってくるのが当然で、撫でると気持ちよさそうに喉を鳴らしてくれるのが当然で、夜寝るときは必ず俺の枕元で丸まってくれるのが当然だった。その「当然」が、こんなにもあっけなく、もう二度と戻ってこないものだったとは。
手持ち無沙汰なまま、もりたぽの残したものたちをぼんやりと見つめていた。お気に入りの毛布、よく寝ていた窓辺のクッション、直子が贈ってくれた栄養食のパック。どれももりたぽの匂いが染みついている。触れるたびにそのぬくもりが蘇ってきそうで、でもどれも冷たく静かで、それがもりたぽのいない現実を突きつけてくるようだった。
ふと、スマートフォンの画面に目が留まった。そこには、直子からのメッセージが表示されている。直子はあの子のことを本当に大事に思ってくれていた。「お疲れ様」「ゆっくりしてください」とだけ書かれたその言葉が、静かに胸に沁みた。彼女もきっと、この瞬間に心を痛めてくれているのだろう。
そういえば、俺は彼女に返信をしていなかった。既読無視だ。そんなことにも何時間も気づいていなかった。しばらく考えた後、俺はメッセージを打ち始めた。
「ありがとう。直子があいつを可愛がってくれてたこと、すごく嬉しかったよ。もりたぽもきっと、感謝してると思う」
送信してしばらくしてから、直子からの返信が来た。
「私も、もりたぽちゃんのこと大好きだった。まだ信じられないくらい悲しいけど、もりたぽちゃんがたくさんの愛に囲まれて幸せだったこと、心から感じてるよ」
その言葉を見て、俺の中で少しだけ、もりたぽのためにできることが見えてきた気がした。あいつが残してくれた時間や思い出を、大事にし続けることが、俺にできる「弔い」なんじゃないかって。
もりたぽとの思い出が詰まった部屋は、もう少しそのままにしておこうと思う。慌てて片づける必要なんてない。あいつと過ごした日々を少しずつ思い出して、その温もりが自然に心の中に溶け込むまで、ゆっくりと向き合っていこう。
夜、ふと窓の外を見ると、冷たく澄んだ空に星が瞬いていた。もりたぽがあの星のひとつになったのだと考えたら、不思議と少しだけ安心できる気がした。
「もりたぽ、そっちではゆっくり休めよ」
小さく呟きながら、俺はそっと目を閉じた。
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