7 :名無しさん 14/07/03 19:47 ID:xbpj2XwexC (・∀・)イイ!! (2)
まず東十条が登場する。彼はFラン私大の非常勤講師だった。頭のネジがゆるんでいたのでまともな講義はできなかったが自分ではそれを完璧な講義だと信じこんでいた。彼の本来の専攻は国際政治学(国際関係論)である。しかし彼が実際に政治学の専門科目の講義を担当する可能性はもはや皆無に近い。今年度の担当科目は第二外国語の「韓国語I」を週に1コマだけだ。非常勤講師の場合は担当コマ数の少なさが収入の少なさに直結するため彼は不惑を過ぎてなお実家暮らしであった。専攻たる国際政治学の研究のためには講義や身の回りの家事などに時間を割いている暇などなくその為に他の家族がいるのではないかというのが彼の理屈だったのだろう。その理屈を誰かが聞いたわけではないにもかかわらず誰もが東十条のその理屈を悟っていた。何が悲しくて自分が講義や著述やテレビ出演などの卑近な仕事をしなくてはならないのかと東十条は思っているのであろうと皆が確信していた。なぜかというとそもそもそんな必要はまったくないにかかわらずそのまったくない必要以上に彼はコソアンで政治アンケや中韓アンケを立てる努力を怠らなかったからだ。本来匿名であるはずのコソアンにおいて政治とりわけ国際政治のアンケを多く立てることで自分を大人物に見せかけようとするその行動の硬直性は、彼が大学における境遇に全く満足していないことの反映であった。そんなことをしている暇があったら一本でも余計に論文を書き、また同時に大学あるいは学会などにおける人脈(コネ)作りにも励むべきであるということをあきらかに東十条は知らなかった。さらにまた、そもそもなぜコソアンで益体もないアンケ立てを繰り返しているのかといえば彼は周囲の誰にも自分が理解してもらえないことを悩んでおり、自分の意見に対する同意が明確な数字の形で欲しかったからだ。というのは家族や近隣住民の中には週1日の出講時以外は殆ど外出せず家計に金も入れない東十条のことをあれは大学講師というのは嘘でただの無職ではないかという者がいたし他のある者に到っては知的障害者だろうなどとも言い、そうした言葉の端ばしは窓を開けて換気などしている際自身のことについては限りなく敏感な東十条の耳にしばしば入ってきたからである。むろんそうした言葉は家族たちの至極素朴な疑問に過ぎず大学非常勤講師というものを自分たち人間の最底辺またはそれより下に貶めようとするものでは全くなかったのだ。むしろ家族たちの階級感覚ではたとえ実際にはそのような階級制度などが存在しないにもかかわらず、そしてそのことがわかっていてさえ東十条はそもそも講師どころか人間ですらないのだと思える筈だった。相応の年齢に達しており大学講師だと標榜しているのに実家暮らしでありながら家計に1円も入れないなど社会的生物たる人間の常識としてはあり得ないではないか。それにまた東十条を無職というなら彼と同程度にコマ数や収入が少ない非常勤講師はいくらでもいたし、しかもこの大学には低収入の講師や助手や職員等による労働組合めいたものもあったからその点においては彼らは仲間である。だがこれは誰にでも容易に想像できることながら彼は当然他の講師だけでなく大学関係者全員が嫌いであった。そもそも論文を書き上げてもその低質さとコネの乏しさ故に学内の紀要にすら滅多に掲載されない東十条がいつまでも非常勤講師として大学にしがみついていることが誰の眼からも不思議に見えた。またこの大学では第二外国語は数種類から1つを選択すればよく韓国語を履修する必然性がないためか学生の態度も総じて悪かった。成績評価において出席点を重視する旨を予めシラバスに明記しており実際に毎回出席をとっており1コマあたり二十数名の履修登録者がいるにも関わらず出席者数は常に1桁であり、しかもそれは回を重ねる度に減っていき時には半年ごとに行われる期末試験の受験者がゼロだったことさえあった。もちろんそんなことは些細な一例である。しかしその些細な例の積み重なりは東十条の気を狂わせずにはおかなかった筈と誰もが確信していた。もしかするとそれに耐えているように見せかけていることこそ東十条がすでに狂っている証拠ではなかっただろうか。東十条が知的障害者ではないかと言った者は東十条のコミュニケーション能力が不自由であることによって連想が短絡したのでありしかも東十条は決して日本語の読み書きや大学への電車移動すらできない本物の知的障害者ではない。その証拠に東十条は今週もまた講義のためと称して昼間何時間かコソアンに来ない日がある。ところが暗に自分は知障や無職ではなく大学講師だと自己主張するその東十条が講師として有能だったかといえば決してそんなことはなかったのだ。東十条の担当科目における履修放棄者は発生率・発生数ともに他のどの科目よりも群を抜いて多く異常であり、つまりそれは大学当局側に彼の講師としての適性について充分疑問を抱かせ得るほどのものだった。なぜ彼の担当科目に限って履修放棄者が多いのかという疑問及び彼が講義中に韓国語を発音する際の儀式めいた珍妙な絶叫は大学内において一種の都市伝説と化しているほどだがこれはのちに詳しく述べる機会があるだろう。


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